組織の人材配置には、「適材適所」と「適所適材」という2つのアプローチがあります。
特に地方のローカルビジネスでは、人手不足や後継者問題が深刻化しており、いかに人材を活かし、育てるかが経営のカギとなります。
本稿では、システム思考の視点から適材適所と適所適材の違いを解説し、地方の中小企業で実践できる具体例を紹介します。
適材適所と適所適材の違い
中小企業経営において、人材配置は事業の成長や持続可能性を左右します。
適材適所は現在いる人材の強みを活かして配置する方法で、短期的に成果を出しやすい一方、特定の人に依存するため事業の継続性に課題があります。
対して、適所適材は役割を先に設計し、それに合った人材を配置する方法です。時間がかかりますが、組織としての持続可能性が高まるのが特徴です。
システム思考による理解
システム思考の観点では、適材適所は「部分最適」、適所適材は「全体最適」と捉えることができます。
- 適材適所(部分最適):個々の能力は最大化されるが、組織全体の成長には限界がある
- 適所適材(全体最適):役割を設計し、それに合う人材を配置することで、組織全体の競争力が高まる
短期的には適材適所が効果的ですが、事業承継や持続的な成長を目指す場合は、適所適材が不可欠です。
地方のローカルビジネスでの実例
1.製造業 – トヨタ方式 vs 職人技の工房
- 適材適所:伝統工房の熟練職人
地元の工芸品や家具製作所などでは、職人の技能が事業の柱です。- メリット:高品質な製品を作れる
- デメリット:特定の職人に依存しており、退職や引退で事業が停滞するリスクがある
- 適所適材:食品工場や量産型製造業
トヨタ生産方式のように、工程ごとに役割を分け、誰が担当しても同じ品質で製造できる仕組みを作ります。- メリット:人材が変わっても安定した生産が可能
2.建設業 – ベテラン職人の現場 vs チーム型の施工体制
- 適材適所:親方が仕切る建設現場
ベテラン職人が経験と勘で現場を仕切り、若手はそれを見て学びます。- デメリット:親方が引退すると現場のスキルが失われる
- 適所適材:分業型の施工チーム
設計、施工、安全管理など役割を明確に分担する体制を構築します。- メリット:属人性を排除し、誰が指揮しても現場が動く体制が整う
3.小売業 – 個人商店 vs ローカルチェーン
- 適材適所:家族経営の商店
店主が仕入れから販売まで全てを担当する個人商店は、店主のスキルに依存します。- デメリット:店主が不在になると営業できない
- 適所適材:チェーン店型の運営
仕入れ担当、販売担当など役割を分担し、シフト制で運営します。- メリット:特定の人が休んでも店が回り、多店舗展開も可能
4.サービス業 – 個人経営の美容室 vs チーム型美容室
- 適材適所:個人経営の美容室
店主が全ての施術を担当する美容室は、「あの人にお願いしたい」という指名客が多くつきます。- デメリット:店主が休業すると売上が止まる
- 適所適材:大型美容室の分業
受付、カット、カラーなど役割を分担し、複数のスタッフで回します。- メリット:スタッフが交代してもサービスが維持できる
実務での活用
- 短期的な成果を出したい場面
- 適材適所を活用し、即戦力となる人材を適切なポジションに配置する
- 長期的な成長や事業承継を見据えた場面
- 適所適材で役割を設計し、人材を育成・配置する体制を構築する
結論
適材適所と適所適材は、どちらが優れているというものではありません。
状況に応じて使い分けることで、短期的な成果と長期的な成長の両立が可能になります。
地方の中小企業では、適所適材の仕組みを徐々に取り入れ、持続可能な経営体制を築くことが、将来の安定した経営につながります。