建設業C社は長年、経営者がすべての重要業務を直接管理してきました。
プロジェクトの進行状況から資材調達、人事評価まで、C氏が関与しなければ意思決定が進まない状況が続いていました。結果として、現場の判断スピードが遅れ、事業規模の拡大が頭打ちになっていたのです。
この課題に対しC社は「リーダー制の導入」に踏み切りましたが、一般的な「事業部ごとのリーダー任命」という方法は避けました。理由は明確で、リーダー任命=放任主義に陥りやすいからです。任された現場リーダーが目の前の業務に集中しすぎ、全体の進捗が管理されず、結果的に経営者が介入せざるを得なくなる事例が多いためです。
C社は、法定の技術者配置とは別に、「管理の視点」を持つ業務監督者(プロジェクトマネージャー:PM)の設置を決断しました。
このPMの役割は、施工管理技術者や専任技術者といった法定技術者の技術的な判断とは異なります。具体的には以下の通りです:
- 法定技術者:
- 施工管理技術者:工事現場における技術上の管理
- 専任技術者:請負金額に応じた現場の技術的施工管理
- 資格要件があり、法律で定められた責任と権限を持つ
- プロジェクトマネージャー(PM):
- 予算・工程・品質の総合的なマネジメント
- 発注者や協力会社との折衝窓口
- 収益管理や原価管理
- 複数現場の統括的な進行管理
つまり、法定技術者が「技術面での品質確保」を担保する一方で、PMは「プロジェクト全体の経営的な成功」を担うという役割の違いがあります。
これにより、「放任によるマネジメント不足」という事態を防ぎつつ、経営者が逐一確認する業務量を減らす仕組みが整いました。
権限委譲後、C社では以下のような変化が見られました。
- 各プロジェクトの進行管理精度が向上し、工期の短縮が約20%実現
- PMがコスト意識を持つことで、利益率が5%向上
- 経営者がプロジェクト単位で状況を把握する必要が減り、新規事業の開発に集中できるようになった
また、現場からも「法定技術者が本来の技術管理に専念できる環境が整い、品質管理の精度が向上した」という声が上がっています。
C氏は振り返ります。「任せることは大切ですが、任せる業務範囲と責任の所在を曖昧にしてはならない。プロジェクトを総合的に見る立場を作り出すことが、会社全体の成長につながる」。
このようにC社は、法定技術者の役割を明確に保ちながら、経営的な視点でのプロジェクト管理を実現。結果として、技術者が本来の業務に集中でき、なおかつ収益性の向上も実現できる体制を構築しました。
貴社でも、まずは「技術管理」と「プロジェクトマネジメント」の役割を明確に分け、それぞれが最大限の力を発揮できる体制づくりから始めてみてはいかがでしょうか。